翻訳あれこれ

第9回:翻訳に役立つ参考書(9)

わかりやすい英語冠詞講義(石田秀雄)大修館書店

英和あるいは和英作文と翻訳との違いはなにかといえば、文章の「状況」や「前後関係」を考慮するかどうかだ、ということができます。冠詞を正しく理解することによって、状況と前後関係を考慮した、奥行と幅のある和英翻訳あるいは英和翻訳ができるようになります。

『わかりやすい英語冠詞講義』は深い学識と熱意が伝わってくる、冠詞についての優れた解説書です。従来、英文法の学習では、短い文章を取り上げて品詞ごとに逐語訳的に解説をすることが主流でした。説明には専門用語が使われ、文章が書かれた状況や前後関係は、多くの場合、切り捨てられる傾向にあります。

例えば、従来の文法書では不定冠詞と定冠詞の相違について次のように説明します。
(a) This is the map I borrowed from Bill.
(ビルから借りた地図)
(b) This is a map (=one of the maps) I borrowed from Bill.
(同上)
(a)は地図が1つで特定されるが、(b)はいくつかの地図の中の不定の1つを指す。
* 『英文法解説』(江川泰一郎)金子書房 p117 定冠詞

上記の 「(a)は地図が1つで特定されるが、(b)はいくつかの地図の中の不定の1つを指す」という説明を正しく理解できる学習者は少ないのではないでしょうか。ここで使われている「特定」とか「不定」という文法用語はどのような意味なのでしょうか。

『わかりやすい英語冠詞講義』では同様な文例に対して次のように説明されてます。
(a) This is the book I bought yesterday.
これが昨日私が買った本です。
(b) This is a book I bought yesterday.
これは昨日私が買った本です。

定冠詞を使った文例(a)は、『「昨日私は本を買った」という事実、あるいはそうした事実と関連のある話をしていて、聞き手から「それはどの本か」と尋ねられたときの答えになる文であり、「これが昨日私が買った本だ」という意味を表す。』
不定冠詞を使った文例(b)は、『「これは昨日私が買った本だ」という記述的な意味を表しています。(中略)「昨日本を買った」という事実を初めて話題として取り上げるような状況を想定することができる』と説明されます。

冠詞は、「一つの」や「その」などという逐語訳的な説明だけでは理解できません。冠詞を理解するには、文章が書かれた状況や前後関係が大切なのです。本書では、定冠詞について、外界照応(状況)、前方照応や後方照応(前後関係)といった概念を使って、わかりやすく説明します。
従来の英文法書を否定するものではありませんが、これまで軽視あるいは看過されてきた、文章が書かれた状況や前後関係という考え方を導入することによって、学習者は冠詞をより深く理解できるようになります。また、英文読解力が飛躍的に向上することでしょう。

冠詞の理解は、英和翻訳のみならず和英翻訳にとっても大切な要素です。翻訳会社の翻訳者募集試験においても、冠詞が正しく読解できているかどうかは、評価の重要なポイントとなります。

同著者の姉妹編として『これならわかる!英語冠詞トレーニング』(石田秀雄著 DHC刊)があります。
また、『英語冠詞の世界』(織田稔著 研究社刊)も、冠詞についての示唆に富んだ優れた研究書です。併せてお読みになることをお勧めします。

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