翻訳あれこれ

第1回:翻訳に役立つ参考書(1)

活用機械英和辞典 (岡地 栄 編著)工業調査会

活用機械英和辞典の初版の発行は1971年だから40年以上も前です。本書の特長は一般辞書には記載されていない技術英語の用例を豊富に収集している点です。今では、書店の技術英語コーナーに類書を見つけることは容易ですが、35年前には画期的な辞書だったといえます。PCの無い時代に膨大な量の単語と用例を整理することは大変な作業です。物理的な仕事量の点で、さらに内容の充実という点においても、本書は技術翻訳の辞典・用例集として傑出した書物です。

本書はまず、解説から読むことを推奨します。岡地氏は「1.翻訳とは何か」で、「翻訳が上手になるための条件は……. 表現手段である素材を豊富に獲得し、標準基準を身につけること」と述べています。つまり、英語ならば英米で実際に使われている表現、用例をたくさん覚えることだというのです。
翻訳というのは結局、英和、和英作文(逐語訳)ではなく、英語から日本語、あるいは日本語から英語への文章単位の変換(再表現)だと言えます。

本書は単なるアルファベット順に単語を羅列するのではなく、各単語の用例(実務文書中でどのように使用されているか)という観点から編集されており、英語文章とその 日本語訳が記載されています。一般辞書のように普遍性を目指すのではなく、日本語訳も具体的、実際的です。実際に翻訳をする場合に役立つ表現例が多く、 引用されている英文用例の多くは英米で発行された雑誌などからの引用なので質も高く、日本語訳も現場用語を使ったこなれた表現になっていて翻訳する際に役立 ちます。

英和訳についてもう一言付け加えるならば、著者はいかに翻訳をするかについてこう述べています。
「次のようなテクニックもあります。そしてこれは現在私が意識している唯一のテクニックです。それは『意識の流れは万国共通だから、頭から訳すと自然な訳になる』」ということです。」
英語を前から順に訳してゆくというのは非常に重要なことです。詳細は別の機会に譲りますが、翻訳する場合に守るべき第一の規則です。

本書はそれほど高価ではないので、技術翻訳を志す人にお勧めしたい一冊です。 技術翻訳辞書の歴史の第1ページを飾るにふさわしい優れた辞典・表現例集です。

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